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ある初冬の昼下がり、名探偵・明智小五郎は探偵事務所の安楽椅子に深く腰掛け、やわらかな木漏れ日を浴びつつ安閑とうたた寝を楽しんでいた。今日も平穏な一日である。彼ほどに有能な探偵がこうして暇をもてあますということは、街に不可解な犯罪もなく、世間が平穏であることの証である。それは平和を愛する彼にとっても本来喜ぶべきことであったのだが、多少の退屈と物足りなさとを感じないこともなかった。そう、明智小五郎こそは、世にはびこる奇怪な事件をこよなく愛する、生まれついての探偵気質なのであった。
「先生、天地をゆるがす一大事です!」
喜ぶべきか、それとも悲しむべきか。探偵のひと時の休息は、無造作に開け放たれた所長室のドアの音と、若き探偵助手・小林少年の痛切な叫び声により、たった今終わりを告げた。
「怪人二十面相が、また現れました!」
「なんだって!?」
かつて明智探偵の好敵手と呼ばれ、奇々怪々な事件を巻き起こしては東京の街を混乱に陥れた怪人二十面相も、明智探偵との壮絶な知能戦のすえついに破れ、今は拘置所の中でざんげの日々を送っているはずであった。その二十面相の名前が小林少年の口から飛び出たことに、さしもの名探偵もおどろきを隠すことが出来なかった。
「彼は今、四方をジュラルミンの合金壁で囲まれた脱出不能の特別房に収監されているはずだが」
「それが、今しがた拘置所から電話が入りまして。先ほど看守が小窓から二十面相の様子をうかがったところ、いつの間にやらまるで雲か霞のごとくかき消えてしまっていたそうです」
「ハハハ、さすが二十面相。怪人の面目躍如といったところだね」
「先生、笑い事ではありません。ぼくなんて、忌まわしき怪人二十面相との戦いの日々が再び始まると考えてみただけで、こうして体じゅうに震えが走るというのに!」
「いや、失敬。して、かの怪人は、今度はいったいどんな悪事を企んでいるというのだろうか」
「これをご覧ください。きっと犯行予告にちがいありません」
「なんと。犯行予告状とは、きゃつもなかなか時代がかった味な真似をする。して、その予告状はドコに届いたものなのかね。警視総監宛か、それともどこぞの大富豪宅か」
「いいえ、これは特別房の壁に書き残されていたwebアドレス先にあったものです。とにかく、まずはこの怪文書を読んでみてください」
「ハハハハハ。小林少年、これは脅迫状などではないよ。ただのブログさ」
「ブログ!? それは一体なんです? 先生がよくお召しになっている外套ですか」
「君にも困ったものだな。ブログとフロックコートの区別がつかないとは、どうやら君はネット方面にはトンと疎いとみえる。僕の第一助手である君がそのような不見識では困るね」
「すみません、反省します」
「ブログといえば、今や web に限らず TV や雑誌でもよく目にする単語だから、覚えておくに越したことはない。ブログとは、簡単にいってしまえばネット上の日記のようなものさ」
「ネットで日記ですって!? 日記というものは本来こっそり書きとめられるものだとばかり思っていましたが」
「ネットで日記を公開するメリットは意外とあるものだよ。同じ日記を書くにしても、
・日常の日記を書く → 記事に対して寄せられた他人の反応やコメントを楽しむ
・趣味の日記を書く → 同じ趣味の仲間が見つかることも
・日記に広告を載せる → 副収入を得るチャンス
・会社や業務に関する日記(ビジネスブログ) → 企業の広告になる
等々、書き方や内容によってさまざまな楽しみ方や利点が生まれるというわけさ。すでに日本のブログ人口は400万を突破したと聞くから、ネットで日記を書くことは、もはや日本国民にとって活動写真やカフェーのように身近な娯楽となりつつあるのかもしれないね」
「その、ブログなる日記物をネット上で連載しているのはどのような人々なのでしょうか。きっと文章に自信のある文豪ばかりなのでしょうね」
「そんなことはないさ。たとえば女優の真鍋かをり女史や野球選手の古田敦也氏を筆頭に、現在多くの有名人がブログを利用した情報発信を行っているし、『実録鬼嫁日記』や『生協の白石さん』のような一般人のブログでも、人気を博したものの中には書籍化・ドラマ化・映画化されるものまであるんだ」
「すごいや。ブログさえあれば、立身出世も思いのままですね!」
「どう使うかは人それぞれだが、自己満足からビジネスの世界まで、利用者側のさまざまな願望を満たしてくれるのがブログというシロモノなのさ」
「そんなに素晴らしい文明の利器があったなんて。こうしちゃいられない、僕も急いでブログを作らないと!」
「オイオイ、待ちたまえ小林少年。そんなに急いで、君はいったいどんなブログを作るつもりなのかね」
「はい、この明智探偵事務所に関するブログを作って、明智先生のことをより広く巷間に知らしめたいと思います! ブログが有名になれば事務所ももっと繁盛するにちがいありません!」
「それは殊勝な心がけだが、理解が不十分なままブログを始めてもきっと上手くはいくまいよ。あの怪人二十面相のようにね!」
「ええっ、かの二十面相の二十面ブログが失敗すると、先生はそうおっしゃるんですか? だって、彼は悪魔のような天才的頭脳でアッという間にブログを二十個も作ってしまった男ですよ」
明智探偵が憶測だけで話をするような人間でないことを一番よく知っているのは、常に彼のそばにひかえている小林少年である。しかし明智探偵は、いったいどんな根拠があって二十面相のブログが頓挫することを予見したのであろうか……?
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| ▲ドラマ化・マンガ化に続き映画化も決定、絶好調の「実録鬼嫁日記」 |
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